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FIPにかかる原因は"ストレス"じゃない

  • 執筆者の写真: Dr.Y
    Dr.Y
  • 3月14日
  • 読了時間: 4分

更新日:3月25日


多くの人が知っているように、猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルスが変異して発生するものです。

では、なぜ変異が起こるのか?

聞いた中で、一番ありえないですが、一番よくある説がこれです。


「ウイルスの変異は、猫のストレスが原因で起こる。」


ぱっと見、『なるほど〜』となりやすいよね。。。

ちゃんとした獣医の記事でもそう書かれていることもありますし。

でも


?????????????


ストレスでウイルスが変異するって、よく考えたら、ありえなくない?????



変異する原因


猫コロナウイルスがFIPウイルス(FIPV)に変異する原因は、どんなウイルスの変異とも同じで、宿主の遺伝子にしか関係がありません


ストレスとか、他の病気とか、そういうのは一切関係ない。


現時点で確認されている、FECV(猫腸コロナウイルス)からFIPVに変異する原因となる11個の変異遺伝子は、すべて遺伝によるもので、そのうち5つは東南アジア系の猫からきている。



バーマン、シャムなどの猫はこの遺伝子を持っていて、ヒマラヤンやラグドールみたいなポイントカラーの品種は、ほぼ逃れられない。


実際にFIPと診断された猫の中で、これらの品種の割合もすごく高いです。



FECVがFIPVに変異しやすい猫の品種
FECVがFIPVに変異しやすい猫の品種


その他に、近親交配によって劣性遺伝子が表面化してしまうのも原因の一つになる。

例えば、野良猫が自然にFIPを発症した場合は、これが原因の可能性が高い。これは、いわゆる遺伝性の疾患と同じ。


こういう劣性遺伝子は次世代に引き継がれるから、FIPにかかった母猫の子供も病気になるリスクが高くなる。


ネットでよく言われる「ストレス説」っていうのは、要するに、糖質コルチコイドが過剰に分泌されることで免疫機能が低下し、γインターフェロンの分泌も抑制されるって話だと思います。


だから、ストレスが影響するのは 「FIPVを持っている猫が発症するかどうか」であって、FECVがFIPVに変異する原因ではない。


つまり、FIPVの株を持っていない猫は、どれだけ大量なFECVに感染していても、どれだけストレスを受けても、ウイルスが変異することはない。



ウイルスはどうやって増殖するの?


ウイルスが変異する仕組みを理解するには、まずウイルスがどうやって増殖するのかを知る必要がある。


ウイルスにはいろんな種類があって、それぞれ増殖の仕方が違う。


例えば、一本鎖DNAウイルス、二本鎖DNAウイルス、二本鎖RNAウイルスとか。

ここでは、コロナウイルスが属する「一本鎖プラス鎖RNAウイルス」に限定して話す。


1️⃣ ウイルスのSタンパク質が、宿主細胞の表面にあるアミノペプチダーゼNの金属プロテアーゼやN-アセチルノイラミン酸と結合し、細胞に侵入するための通路を作る。

2️⃣ ウイルスはその通路を使って、自分のRNAを宿主細胞の細胞質に注入する。

3️⃣ RNAポリメラーゼを合成し、ウイルスのRNA鎖の相補的な鋳型鎖を転写する。。

4️⃣ RNAポリメラーゼが鋳型RNAを使って、多数の新しいウイルスRNAを作る。

5️⃣ それぞれのRNAが、細胞内のアミノ酸を利用して、ウイルスのタンパク質を合成する。

6️⃣ 合成されたタンパク質が組み立てられ、新しいウイルスが完成し、宿主細胞を離れて増殖を繰り返す。



ウイルスの変異は、RNAのコピーエラーで起こる


問題は、③のステップ です。


RNAポリメラーゼがRNAをコピーする際にミスをすることがある。例えば、アデニン(A)をグアニン(G)に置き換えてしまうようなエラーがある。


このミスが起こると、後のタンパク質の合成に影響を与え、最終的に「抗原ドリフト」と呼ばれる連続な変異につながる。


さらに、宿主の細胞質にある特定の酵素が、このエラーの発生率を高めることがある。

例えば、RNA依存性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)という酵素は、アデニン(A)をグアニン(G)に変える超突然変異を引き起こす。


このエラーが④のRNAコピーに引き継がれると、タンパク質合成に異常が出て、ウイルスが変異する。



FECVからFIPVへの変異の決定的なポイント


猫コロナウイルスの変異は、主にSタンパク質の特定のアミノ酸が置き換わることによって起こる。

具体的には、Sタンパク質の重要な部分にあるアルギニンがリシンに置き換わる


Sタンパク質は、フーリンという酵素で切断されることで活性化するが、切断後の特定の配列がリシン残基になっていると、ウイルスの標的が変わる。

つまり、腸粘膜細胞に感染していたFECVが、マクロファージに感染するFIPVに変異する。


だから、FECVがFIPVに変異するかどうかは、猫の遺伝子がどれだけこの転写ミスを誘発しやすい環境を持っているかにかかっている。





 

猫博士では、FIP(猫伝染性腹膜炎)、難治性口内炎、パルボウイルス、猫白血病、猫エイズなど、治療が困難とされる疾患の治療支援を行っております。


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また、病院で診断がつかない場合のご相談、検査項目のご提案、治療方針のアドバイス、処方薬の評価など、飼い主様の不安に寄り添いながらサポートいたします。


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