FIP寛解の基準
- Dr.Y
- 3月24日
- 読了時間: 4分
更新日:3月25日
まず、FIPの寛解を単純にA/G比で判断することはできませんし、症状が改善し、ほとんどの数値がい「基準範囲」に戻ったからといって、治療が完了したと判断することもできません。
もちろん、薬を投与した84日という日数だけで決めるものでもありません。
一部の意見は、84日の治療が終了した後も猫の状態、食欲、排泄などを引き続き観察する必要があると言います。
間違いではありませんが、根本的な問題の解決にはなりません。観察しても、再発するものは、やはり再発します。
ですので、猫の体内からFIPVが本当にクリアされたかどうかを判断するためには、ある一定の基準が必要です。
その具体的な基準とは何か、以前の投稿で説明しました。
今回はその基準を設ける根拠についてお話しします。
まずはいくつかの定義と概念を簡略化して説明します。
白血球(White Blood Cell, WBC)は、CBC(血球検査)でよく見る項目です。
これは体内の重要な免疫細胞で、大きく分けて二つのタイプがあります:
貪食細胞とリンパ球です。
貪食細胞(主に好中球)はその名の通り、小さな病原体を「食べる」のです。
一方、リンパ球は異なる攻撃手段で私たちの体を守ります。

リンパ球の中にはB細胞という種類があり、これは抗体を産生する役割を持っています。
抗体は抗原結合部位(エピトープ)で病原体表面の抗原を捉え、自身のFc領域(フラグメント結晶化可能領域)を介して貪食細胞やT細胞など、病原体を攻撃できる他の免疫細胞と連携します。
あなたが泥棒を捕まった時に、片手で相手を抑えて、片手で110番に電話をかけて、警察を呼ぶみたいなイメージですね。

リンパ球の中のT細胞は、細胞傷害性を用いて直接的に目標を殺します。
また、一部の抗体は他の抗体と結合して網目状の構造を作り、病原体を排除はできなくても、広がりを抑えるように働きます。
健康な動物におけるリンパ球の割合は比較的低く、通常は白血球全体の約15%程度です。
明確なターゲット(病原体)があるときのみ、リンパ球は大量に産生され、それが『免疫応答』と呼ばれます。
免疫応答を発動するには、免疫系が病原体の情報を取得しなければなりません。
この病原体の情報は「主要組織適合複合体(MHC)」と呼ばれるもので、全部で三種類あります。
そのうちの一つ、MHCクラスIIは貪食細胞が病原体を取り込み、分解し、必要な抗原情報を含んだ構造として提示します。
免疫系がこの情報を得ることで初めて、B細胞はその病原体に対する抗体を産生し始めます。それが「グロブリン」です。
抗体の種類ごとに異なるグロブリンが存在し、アルファ、ベータ、ガンマといったタイプに分類されます。FIPウイルスに対しては主にガンマグロブリンが関与します。
FIPウイルスが体内から排除された場合、グロブリンの量も正常範囲に戻ります。
ただし、これは貪食細胞が十分に存在するという前提のもとで成り立つ話です。
もし貪食細胞の数が少なければ、免疫応答が不十分となり、抗体を大量に産生することはありません。それはウイルスがいなくなったからではなく、免疫系がウイルスの存在を「認識できていない」だけなのです。
だからこそ、前回の投稿でも言ったように、FIPウイルスがクリアされたかどうかを判断する基準は:
グロブリン値が35g/L以下
好中球数が7.5×10⁹/L以上
c
猫によって、免疫力や薬の吸収能力など個体差があるため、多くの猫が「84日間の治療」を終えた後でもこの基準に届かないことがあります。これが再発が多い理由でもあります。
では、こういう場合はどうすれば良いのでしょうか?
投薬の戦略を変更する必要があります。
じゃ、どう変更するのか?
これについては話が長くなりますので、次回また詳しくお話しします。
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